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寝台列車の通る街

・・・プオォーン・・・

 毎朝、いつもと違う汽笛が聞こえる。そしてボクの目の前を青い機関車と青い客車が通り過ぎていく。ボクはそれを見るのがずっと楽しみだった。
 客車の窓の向こう側では、ボクに向かって手を振ってくれる人、どこか遠くを眺めている人、なんかせわしなく動いている人など、さまざまな人が見える。

 ボクが大きくなるにつれて、あれはTという大きな町とSという港町との間を行ったり来たりしている寝台列車だということがわかった。寝台列車というのは夜、列車の中で寝ているといつの間にか行きたいところに着いているというものだ。あれに乗ってみたい…僕はそう思うようになった。
 パパに頼んでみたこともあった。けれども乗せてはくれなかった。パパは言う。

「あれはキミの行っちゃいけないところに連れて行くんだ」

と。でもボクは知っているんだ。あれはまだ見たことのない不思議な街へ行くんだと。
 そのうちに、その寝台列車を見ることがなくなった。今度は線路ではなく、この大きな空を飛んでいるのだろうか。でも本当は違った。乗る人が少なくなって走らなくなったんだと。それからボクは、毎朝線路を見ることがなくなった。
 今ボクは、毎朝その線路を使っていろんなところに行っているけれども、その線路に昔、寝台列車が走っていたんだよ、といっても、いったい誰が信じるだろうか。

・・・プオォーン・・・

 ボクの頭の中では、今もその汽笛が聞こえる。

(終わり)